iPhoneやiPadを見ていると、ボタンなどを最小限にした「削ぎ落したデザイン」に美しさを感じずにいられません。この「削ぎ落したデザイン」は、禅や茶の湯などシンプルさを追求し、不要なものを削ぎ落していった日本文化に通じるものがあります。
Appleを発展させた大功労者であるジョブズ氏は禅の影響を受けていたと言われています。彼のポリシーはシンプルで使いやすく、美しくてワクワクするものを創り出すことでしたが、そこに日本文化のシンプルテイストを見出す人は多いのではないでしょうか。
日本にはこのようなシンプルなデザインの文化があり、最先端の技術もあるのですが、現在の日本にはそこから新しい価値を生み出すだけの力がありません。いったい、なぜなのでしょうか?
最近、「ブラック・スワンの箴言」という本が出版されました。著者はナシーム・ニコラス・タレブ氏です。彼の主張は、現代の日本人にとって非常に示唆に富んでいます。「アメリカ人は秩序なきリスクを取るが、日本人は小さなエラーを恐れて、大胆な行動がとれない」ということです。
この言葉は日本人全体を包み込む閉塞感が、いつまで経っても解消されない背景を上手く言い当てています。その背景とは枝葉末節にこだわるが、大きなことに目をつむりリスクを取らない日本人のマインドです。
マスコミの世界も、そのマインドに支配されています。政治家の細かな失言を取り上げて、センセーショナルに報道しますが、本質的なことを徹底的に追求することは避け、最後は誰もが納得する一般論ばかりを語って終わりです。
政治・行政の世界では、財政赤字は垂れ流し状態のままで、政治家は「まずは無駄をはぶいてからだ」という誰もが反対しない正論を主張して終わりです。10年以上、この言葉を聞いていますが、根本的な解決には、まったくつながっていません。
たとえ公務員宿舎建設をストップさせたからと言って、本質的なことには何も手を付けられていません。問題の核心に手を伸ばせば、血(大きな痛み)が流れるため、目先だけを取り繕って、大きなところは先送りにしているのです。
製造業の世界はもう少しマシですが、多くの企業が同様のマインドに支配されて、身動きが取れない状況です。携帯電話に限らず、多機能な家電製品にこだだわり続け、あれもこれもと機能を詰め込んできました。高度成長の時代ならば、ウケたかもしれませんが、目の肥えた現代社会のオトナは、コストパフォーマンス以外にデザイン、使いやすさなどの価値を重視します。
そのような状況下でもメーカーの多くは、大きなリスクを取らず、今での延長線上にある、安全な路線を歩もうとしています。製品の機能、品質などの細部にはこだわりますが、新しい価値を創造するまでの行動力と決断には至りません。最終的にはトップの責任でリスクをとり、大胆な製品(価値)を作り出すということとしか解決法はないのですが、日本的マインドがそれを邪魔しています。
仮に新し価値を創造しようとする人たちがいたとしたとしても、マスコミが失言を追求し足をひっぱるのと同様に、足を引っ張られて構想は潰されてしまいます。特に大企業にはリスクをとって、新しい価値を創造しようとする気概のある経営者がほとんどいません。(経団連加入企業のトップ見れば、老害大国の様相ですから仕方が無いのかもしれません)
日本人の閉塞感は、黒船、第二次世界大戦など、外国からの力によって破らてきました。今やこの閉塞感は、国家が信用を失うデフォルトという借金を支払えない状態=国家破綻によって再出発を図ることしか解決法はないのではないかと思えてきます。
私は、リスクを取らずに、枝葉末節の改革でお茶を濁す官僚的経営を「アリバイ作りの経営」と呼んでいます。この「アリバイ作りの経営」によって最後に残るのは、努力したというアリバイ(言い訳け)だけです。
いくら知識や技術があっても、誰も大きなリスクを取らず、「アリバイ作りの経営」でお茶を濁す状態では、iPhoneやiPadのような価値を生み出せるはずがありません。
by ハルキ・ムーン
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Last Updated on 2016年10月23日 by Editor
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